チャールズ・ブコウスキー/死をポケットに入れて

死をポケットに入れて
 なんたってタイトルが素晴らしい。70歳を過ぎた、競馬場通いが日課のオヤジが、マックで日記を書くとこんな感じになる。
 日記と言ってもその日にあった事を書いている普通の日記では終わらなく、そこから内容は人生であったり死であったりに続いていく。
 病院などでの会話のやり取りがいくつか載っている。これがとても面白い。返答の仕方がとてもユニーク。さらりと面白い人に憧れる。ブコウスキーはさらりと面白い。ブコウスキーの隣人もユニーク。96歳の爺さん。「自分の仕事をわしに取られてしまわないか、それが心配で、神様はわしを迎えに来てくれんのじゃよ。」
 ロバート・クラムのイラストがいくつかあるのだけれど、それがまた最高。例えば、ブコウスキーが朝起きて靴を履いている絵。「他人の場合はいざ知らず、わたしは朝、靴を履こうとかがむ時、こう思わずにはいられない。また一日がはじまる、やれやれ。」やれやれ。
 ブコウスキーの文章は全然わざと臭くない。とても素直だと思う。考えた事を思った事を、そのまま書いた文。かなり激しくて、読んでてそれが気持ちよい。そしてこの文章を書く人がクラシック音楽を愛しているという事実が面白い。ブコウスキーはロックミュージシャンの人気らしい。
 最後に印象に残った文を。
 「わたしたちは自分たち自身のことをうんと間近で観察し吟味することはできない。そんなことをしたらわたしたちは生きることをやめてしまうことになるし、何一つやらなくなってしまう。ちょうど岩の上に座ってまったく動こうとしない賢者たちのように。」
 パソコン教室に通っているブコウスキーの姿を見てみたかった。