カフカ/変身

変身
 朝起きたら、虫になってた・・・。朝起きたら、自分が虫になってて、「自分はむしになってしまったようだ、そうか」ってとりあえず受け入れるグレーゴル・ザムザ。家族もどうしてグレーゴルが虫になっちゃったのかとかそういう受け取り方ではなくて、グレーゴルは虫になってしまったのだという風に受け入れる。読んでる方もいつの間にか変な違和感は消えていく・・・。
 途中まで笑いながら、読んでた。所々、可笑しい。グレーゴルの心理、行動の描写がとても面白い。
 クスクスしながら読んでたけど、それが途中からとても悲しい、恐い、暗いものになってきた。どこからかはっきりしないけど、たぶん家族の変化を自分が感じはじめたころ辺りからだ。グレーゴルと家族をついでいたものが徐々に切れていく。忘我。忘我による幸せの獲得。はたしてそれは幸せか。ラストのシーンの背景は真っ暗だった。
 奥深い森の中に一人でいるような、そんな感覚。そんな感覚になってることに客観的に気づいてハッとする。凄い、と思う。こういう体験は良い。
 意志を伝えられない人ってのは、他人の意志をメチャクチャ感じるのかもしれない。感じようとする心を失ってしまう、それはとても恐いことだ。
 今まで読んできた本は、みな傑作と言われてるものだけど、この本ほど傑作と言われる所以が感じられるものはなかったと思う。