英雄

 電車の扉が開いて、座席に高校生が座った。4人座れるスペースに3人で座った。おじいさんは彼らの前に立った。僕はおじいさんの横に立った。「もうちょっとつめてあげればおじいさんが座れるのにな」なんて、立っていた僕は思っていた。思っていただけだった。すると、3人の高校生と向かい合うように座っていた一人の高校生がいきなり立ち上がった。そして「4人座れるのでもうちょっとつめてもらえませんか」とはっきりとした口調で彼らに言った。考えて考えて、勇気を振り絞って遂に言ったという感じだった。
 彼の一言でおじいさんは座ることができた。おじいさんはニコニコしていた。3人はびっくりしたのを苦笑いで隠そうとしていた。英雄は席に戻り、漢文の参考書を必死に読んでいた。読んでいるフリをしていたのかもしれない。僕は何か興奮に似たような不思議な感覚になった。と同時に自分の勇気のなさを感じた。
 数分間の間に起こったこと。